日々進化するアドテクノロジーは、企業に多くの顧客データを収集する環境をもたらしたが、データを活用しマーケティングと経営をつなぐマネージメントの人材不足は大きな課題である。本連載では、デジタルマーケティングを推進するリーダーに、データドリブンな取組みを行う上で直面する課題、成功事例についてお話を伺う。
今回は、KDDI株式会社のコミュニケーション本部|宣伝部デジタルマーケティンググループリーダー担当部長の塚本陽一氏にインタビューした。
(聞き手:ExchangeWire Japan編集長 大山忍)
トータルプランニングする人間が自分で数字を見て意思決定
–まず、塚本さんのキャリアのバックグラウンドを教えてください。
塚本:もともと、代理店でマス広告の仕事を中心にやっていました。ネット専業のエージェンシーで仕事をした後、広告主側で数字に責任を持って仕事をしたいと思い、縁あってKDDIに中途入社して1年半強になります。
–塚本さんのKDDIにおける役割と責任範囲を教えてください。
塚本:私が統括する宣伝部は、広告のプランニングと、その効果検証が大きな役割です。その中でペイドメディア、オウンドメディア、アーンドメディアというトリプルメディアをトータルプランニングし、エグゼキューションを含むPDCAを回してパフォーマンスを上げることが大きなミッションです。
–専業の代理店と広告主側の両方の経験をお持ちですが、企業のマネージメントの方々は、デジタルやアドテクを理解する必要があると思われますか。
塚本:マネージメント層に、デジタル領域における経験や“現場感”がないというのは、日本の課題の1つだと思います。アメリカではエグゼクティブクラスの方々でも、効果測定ツールの管理画面に自らがログインして、数値を見て意思決定すると聞きます。
日本ではマネージメントクラスになると手を動かさなくなり、また時には経験の無い人がマネージャーになることもあります。マネージメントは重要な仕事ですが、その時代のテクノロジーにキャッチアップしなければ信頼されず、誤った判断をしてしまうリスクも増えるのではないでしょうか。
私自身は、どちらかというと自分の目で見たいほうなので、提出されたレポートの数字を自分でも確認します。私の立場でエージェンシーさんやサプライヤーさんと対等なディスカッションをするには、自ら情報発信やコミュニケーションをとれなくてはいけませんから。
データを可視化し、ブランドが愛されるためのコンテンツ制作に注力
–ブランディングに取り組む企業として、どんなデジタル施策を実施していますか。
塚本:オンラインの広告=クリック至上主義と思われるかも知れませんが、我々はクリック数やCTRに固執しません。 クリック以外の、その手前の指標を見る必要があります。表示された広告によってどんな態度変容があり、ブランドに対してポジティブなイメージ形成がされたかを追跡する。クリック以降のアクションを全く見ないわけではないのですが、今は態度変容をきちんと測定するスキーム作りに最も注力しています。
–導入しているテクノロジーやサービスを教えてください。
塚本:基本的には、Sizmekさんで3PASをつないで配信しています。態度変容に関しては、Kantarさんのインバナーサーベイ、あとは一般的な生活者のパネルとして調査会社さんのパネルを使っています。特別なものは使っていませんが、それらを組み合わせて可視化するよう工夫しています。
–データを取って可視化するプロセスの中で、社内のコミュニケーションに変化はありましたか。
塚本:auではTV広告を大量に投下しています。テレビだとその露出自体に価値が認められていますが、デジタルの場合は露出だけでは全く評価されません。しかも、ディスプレイ広告が99.9%クリックされないとすると、クリックされた残りの0.1%が評価の対象になります。クリックされない99.9%の露出をきちんと見える化し、ビジネスに対して成果が出ていることを可視化しない限りは、予算も下りません。実際にディスプレイ広告の露出の価値を可視化して、それを役員に報告したケースも過去にはありました。
興味深いのが、オンライン広告とTVCMの素材のクリエイティブをあわせたもの、そうでないものを作ったケースです。態度変容のリフトの変化を見ると、マス広告と連動させた方がリフトする人たちもいれば、そうではない人もいました。オーディエンスをセグメント出来るデジタルでは、その特徴をきちんと理解・把握し、フィーリングやタイミングを合わせてコミュニケーションしていくことが重要だと感じました。
–マスとデジタルの融合に取り組んでいくとなると、パターンや考え方もさまざまで難しいのですね。ちなみに、予算が増えたら、どこに使いたいと思いますか。
塚本:コンテンツを作ることかも知れないですね。auなら発表会や商戦期があるため、そこをフックに端末のコミュニケーションを実施します。つまり、生活者側の生活スタイルやインサイトを考えずに一方通行になりがちです。
しかし携帯電話は、2年間同じものを使い続ける人も多い。買い換えのタイミングではない、全く買うつもりの無い人に端末のコミュニケーションを発信しても、逆にブランドが棄損する可能性があります。
態度変容の話を突き詰めていくと、行き着く先はコンテンツを中心にしたコミュニケーションになると思います。これがまだ十二分に出来ていないので、良いコンテンツを作っていくところに資金やリソースを投資していきたいですね。
–コンテンツがある分、データが取れて、次のPDCAにつながっていきますね。
塚本:auでは、Yahoo!さんのトップページのリッチアドを何度か実施していますが、製品やサービスをセールスプロモーション的に訴求するだけでは限界があると感じています。
プロダクトアウト的に商戦期にプロモーションしたい製品やサービス、を押し売りすればするほど、生活者にとってはつまらないものになっていくというか。製品やサービスを前面に出すだけでなく、ブランドが愛されるためのコミュニケーションやコンテンツを用意するという「ココロを揺さぶるためのアイデアや発想」が必要です。
優れたジェネラリストとスペシャリストどちらも必要
–次に、人材と組織について伺います。今のデジタル チームの編成を教えてください。
塚本:トリプルメディアそれぞれでチームが分かれています。自社のWebサイトをやる人間、ソーシャルをやる人間、ペイド側をやる人間。また、PDCAを回すことも非常に重要ですので、分析担当のチームもあります。
–デジタルの人間を採用するポイントや、彼らに与える権限についてどう考えますか。
塚本:人材については2パターンあります。1つは、これは特にマネージャーに求められるものかも知れませんが、マーケティング全般を俯瞰して見て、デジタル領域で目指すべき方向性を的確にとらえ、高度なバランス感覚で判断出来る人材。スペシャリストはアウトソーシングできますが、我々のビジネスに貢献する形で素材をアライメントし、パフォーマンスを最大限に引き出せるよう変換できるのは社内の人間だけです。
両極端になりますが、もう一方の人材は絶対的な専門領域を持った人です。例えば、ディスプレイ広告領域においてテクノロジーを活用しながらPDCAを高速に回し、効果検証のスキームもきっちり構築するなら誰にも負けない。そんな自負を持っている人材が入れば、ぜひジョインしてほしいですね。
権限については、全部渡したいというのが大前提です。PDCAを回す上では現場が重要だし、現場の人間の感覚ややりたいことを実現していくのが良いと思っていますが、なかなか簡単ではないですね(笑)
–今後チャレンジしようと思っているアドテクノロジーはありますか。
塚本:ツールオリエンテッドではないので、特定のツールというのはありませんね。自分が形にしたいものがあった時、どのツールを利用するとそれが実現しやすいか、PDCAが回るかという考え方です。
–最後に、デジタルマーケティング領域にたずさわる人へのメッセージをお願いします。
塚本:日本のデジタルマーケティング担当者には、自分がリードしていこうという気概が小さい気がしています。日本には日本なりのデジタルマーケティングのあり方、企業にはその企業なりのデジタルマーケティングの理想的な姿があり、他のやり方を真似しようとしても、市場の競争環境など前提条件が変われば意味がありません。自分で答えを探す必要があるわけですが、その意識が低い気がしてなりません。
PDCAを回しやすいデジタルマーケティングは、施策が成功したか失敗したかを自分で振り返ることも容易です。トライ&エラーを繰り返して失敗から学び、成功体験はさらに磨いて発展させればいい。そんな風に、自分がデジタルマーケティングをリードする、自分で答えを見つけていく、という高い志を持って欲しいですね。
–ありがとうございました。
(編集:三橋 ゆか里)